料金を改定したとき、サイトの何ページを直しましたか。そして、直し漏れはありませんでしたか。
私がサイトを診ていると、この「直し漏れ」に高い確率で出会います。トップページの料金は新しいのに、サービス紹介ページは古いまま。よくある話です。担当者が不注意なわけではありません。情報が文章の中に散らばっていて、どこに何が書いてあるかを誰も把握できない構造になっているだけです。
この記事では、その構造をどう変えるかをお伝えします。技術の話に見えるかもしれませんが、判断するのは経営者側です。制作者に任せる前に、決めておくべきことがあります。
先にお断りしておきます。これをやったから売上が上がる、という話ではありません。増えるのは、情報の正確さと、更新の速さです。
1. 情報が「文章の中」にあると何が起きるか
たとえば、こう書かれているとします。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 対応エリア | 大阪府堺市 |
| 営業開始時刻 | 9:00 |
| 営業終了時刻 | 18:00 |
| 初回相談料 | 無料 |
読み物としては自然です。でも、この一文の中には4つの情報が溶け込んでいます。対応エリア、事業内容、営業時間、初回相談の料金。
同じ情報が、トップページにも、サービスページにも、会社概要にも、少しずつ違う言い回しで書かれています。すると、こうなります。
- 更新が漏れる。 営業時間を変えたとき、5ページ直すべきところを3ページしか直せていない
- 表記がゆれる。 「大阪府堺市」「堺市」「堺エリア」が混在する
- どこを直せばいいか分からない。 制作した人が離れると、探すところから始まる
- 一覧にできない。 「対応エリアで絞り込んで表示したい」と思っても、文章からは取り出せない
そして、もう一つ。機械にも正確に伝わりません。 人間は「9時から18時まで」を読めますが、AIや検索エンジンにとっては、文章から意味を取り出す作業が要ります。取り出せるとは限りません。
3. 項目にすると、3つの効き方をします
① 更新が1回で済む
ここで、ひとつ区別が必要です。その情報を「どこに持つか」で、効き方が変わります。
| 情報の種類 | 置き場所 | 直したときの範囲 |
|---|---|---|
| サイト全体で共通(営業時間、電話番号、対応エリア) | サイト共通の設定として持つ | 1か所直せば、表示している全ページが変わる |
| ページごとに違う(各サービスの料金、事例ごとの工期) | そのページの項目として持つ | そのページだけが変わる |
営業時間のようなサイト共通の情報は、記事ごとではなく共通の設定として持つよう依頼してください。そうしておけば、1か所直すだけで、表示しているすべてのページが同時に変わります。5ページを探して回る必要がなくなり、直し漏れも起きません。
逆に、ここを記事ごとの項目として作ってしまうと、結局5か所直すことになります。文章のままより整理はされますが、更新の手間は減りません。設計の段階で分かれる部分なので、最初に伝えておく価値があります。
地味ですが、運用が続くほど効いてきます。担当者が変わっても、入力する場所が決まっているので、崩れません。
これは「一元管理」という、確立された考え方です
思いつきの工夫ではありません。エンジニアの世界では、同じ情報は1か所にだけ持ち、必要な場所からはそれを参照するという原則が基本にあります。一元管理、あるいは「正しい情報の出どころをひとつに決める」という言い方をします。
理由は単純です。情報を複製すると、必ずいつかズレるからです。人間が5か所を完璧に同期し続けることはできません。だから最初から、複製しない構造にしておきます。
これが抑えるのは、2つです。
① リスク(誤った情報が出続けること)
営業時間や料金は、間違っているとそのまま信用の問題になります。「サイトを見て行ったら閉まっていた」「表示価格と請求額が違う」——起きてしまうと、謝って直すだけでは終わりません。1か所しか無ければ、そもそもズレようがありません。
② コスト(更新のたびに増える手間)
文章に散らばっていると、更新の手間は掲載ページ数に比例して増えます。5ページなら5回探して5回直し、5回確認する。ページが増えるほど悪化し、しかも確認漏れの確率も上がります。
一元管理にしておくと、ここが変わります。掲載箇所が10ページに増えても、直す作業は1回のままです。 確認も1か所で済みます。サイトが育つほど差が開く、という性質のものです。
制作者にこの言葉で伝えると、意図が正確に通ります。「この情報は一元管理にしてください」。
② 機械に正確に伝わる
以前、「AIは行間を読めない」という記事で、AIが文章から意味を推測していることを書きました。項目に分けておくと、この推測が要らなくなります。
「対応エリア」という名前の付いた入れ物に「大阪府堺市」が入っていれば、それは所在地の情報だと確定できます。文章の中に埋もれていると、そうはいきません。
構造化データについて(ご存じない方へ)
ここで「構造化データ」という言葉が出てきたので、簡単に説明します。
ページの内容を、機械が読める決まった形式で、もう一度書いておく仕組みです。人間向けのページとは別に、<head> の中に「この会社の名前はこれ」「所在地はこれ」「営業時間はこれ」という一覧を、機械用に添えておくイメージです。名刺を渡すのに近い作業です。
これを入れておくと、AIや検索エンジンが文章から推測せずに済みます。逆に言えば、入っていなければ、機械はずっと推測を続けます。
そして、ここが本題との接点です。構造化データは「項目の一覧」という形をしています。つまり——
- すでに項目で持っている → その値をそのまま流し込めます
- 文章のままである → まず情報を項目に分ける作業から始まります
同じ設計を、2回やることになるかどうかの違いです。先に項目にしておけば、構造化データの実装はほとんど写すだけの作業になります。
構造化データそのものについては、別記事「AIは「行間」を読めない:Webサイトが正しく学習されるための物理的要件」で詳しく書いています。あわせて読むと、この記事の内容がなぜ効くのかが分かりやすいと思います。
③ 情報を組み替えて出せる
ここがマーケティング側の話です。
情報が項目になっていると、後から自由に並べ替えたり、絞り込んだりできます。
- サービス一覧を「料金順」に並べる
- 「対応エリアで絞り込む」機能を付ける
- 料金の比較表を自動で作る
- 新しいキャンペーンページに、既存の情報を引っ張ってくる
文章のままだと、これらは全部「ページを作り直す」作業になります。項目になっていれば、持っている情報を組み替えるだけです。施策を試す速さが変わります。
4. どこまでを項目にするか
全部を項目にする必要はありません。むしろ、やりすぎると入力が苦痛になり、続きません。目安は3つです。
項目にした方がいいもの
- 繰り返し出てくる(料金、営業時間、電話番号、対応エリア)
- 変わる(価格、在庫、キャンペーン期間、担当者)
- 一覧・比較したい(サービス、料金プラン、施工事例、スタッフ)
文章のままでいいもの
- 一度きりの読み物(社長のあいさつ、コラム、お知らせの本文)
- 言い回しそのものに意味があるもの
判断の軸はシンプルです。「同じ情報を、2か所以上に出しますか」「これから変わりますか」。 どちらかが「はい」なら、項目にする価値があります。
5. 制作者への頼み方
社内に技術者がいなくても、次のように伝えれば通じます。
- 「この情報は、本文に直接書くのではなく、項目として持ちたいです」
- 「更新は1か所直せば全部に反映されるようにしてください」
- 「あとで一覧や絞り込みに使いたいので、そのつもりで設計してください」
このとき、項目の候補は自分で出した方がいいです。何を繰り返し使い、何が変わるのかを一番知っているのは、制作者ではなく事業をやっている側だからです。
紙に書き出すだけで十分です。「料金/営業時間/対応エリア/施工事例(写真・工期・費用)」——このくらいのメモがあれば、設計の話は始められます。
6. 注意点
正直に、うまくいかない側も書いておきます。
最初は手間が増えます。 項目を設計し、既存の情報を移す作業が発生します。効いてくるのは運用が始まってからです。
項目にしただけでは、機械には伝わりません。 構造化データとして出力する工程が別に必要です。ここは制作側の作業になります。
作り方が2通りあり、それぞれにコストがあります。 ここは誤解されやすいので、正確に書きます。
まず前提として、項目を持つ仕組み自体は、WordPressに最初から備わっています(カスタムフィールドと呼ばれます)。プラグインが必須というわけではありません。そのうえで、実装の選び方が2つあります。
| プラグインを使う(ACF / SCF) | テーマ側で作る | |
|---|---|---|
| 導入 | 早い | 開発の手間がかかる |
| 入力画面 | 担当者が使いやすい形にしやすい | 作り込まないと簡素になりがち |
| 依存 | 保守の対象がひとつ増える。止めると表示が崩れる | 増えない |
| 属人化 | 設定画面から誰でも構造を確認できる | 作った人しか分からなくなりやすい |
どちらが正解というものではありません。入力する人が毎日触るならプラグイン、項目が数個で固定ならテーマ側、というのが実務上の目安です。
大事なのは、「どちらで作るか、なぜそちらを選ぶか」を制作者に確認しておくことです。そこが曖昧なまま進むと、あとから「このサイトは誰も触れない」という状態になります。
なお私はふだん「機能を足すより、要らないものを減らす」提案をしています。その立場から言うと、プラグインを1つ足すかどうかは、ここでは目的ではありません。目的は情報を一元管理することで、プラグインはそのための選択肢のひとつにすぎない、という順序です。
画面に出していない情報を、機械向けにだけ書いてはいけません。 項目として持っていると、つい「せっかくあるから」と機械向けの情報に足したくなります。ですが検索エンジンは、ページに表示されていない情報をマークアップすることを認めていません。社内メモや原価のような非公開の項目は、表に出さないという線引きが要ります。
そして、これをやれば検索順位が上がる、という話ではありません。 得られるのは、情報が正確であること、更新が速いこと、後から組み替えられること。その3つです。
7. まずは1つ、数えてみる
いきなり全部を作り替える必要はありません。
まず、自社サイトで「料金」または「営業時間」が何ページに書かれているかを数えてみてください。 3ページ以上に出てくるなら、それは項目にする候補です。そして、その全部が今、同じ内容になっているでしょうか。
ここがずれていたなら、それは注意不足ではなく、構造の問題です。文章の中に情報を置いている限り、いつかまた同じことが起きます。
どこを項目にすべきか、いま自社のサイトがどうなっているかは、普段の画面を眺めているだけでは見えにくい部分です。分からなくても、それが普通です。外から見て、どこを整理すれば運用が楽になるかを指す。それができれば、お役に立てると思っています。